かね」
「駿河橋に一しょにいます。お母さんの手をひくために。そして、今のお父さんの子供と夫婦になっています。車夫ですが、酒のみで、バクチ打ちで、悪党なのね。姉さんが気の毒ですわ。私が芸者になったのも兄さんに売りとばされたんですけど、私を助けるために姉さんがはからッても下さったのです。家に居ればロクなことにはならないでしょう。いッそ芸者になる方が身のためですッてね。身売りの金を手切金に、親子の縁を切るから、母も姉もないものと思って、こんな悲しい家のことは二度と思いだしてもいけませんよッて、そう言われて出たんです」
 駒子は姉の厚意を思いだして堪らぬらしく、肩をふるわせているようであった。
 駒子の母こそはまさしくお久美であろう。その姉こそは別離の時にみごもっていたわが子であるに相違ない。なぜなら、梶原は寛永寺で死んだと云い、駒子の父はイタチ組の親分格の望月彦太というではないか。正二郎が寛永寺で死んだというのも、彦太の語ったことであろう。
 駒子がわが子でなくて幸せであった。しかし、むごたらしい運命があるものだ。ようやくお久美の居処が分ったと思えば、それは愛する女の口からだ。そして愛する女
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