ずウンと云えば、私はここの相続者になるんだがねえ。しかし、それじゃア、駒ちゃんが気の毒。お母さんもウンといいそうな見込みがないが、そうなると、私も相続できないし、駒ちゃんも追んだされてお米お源にこの邸を乗っとられてしまうのさ。どっちみちお前さんにはイクラカになるのだから、どうでもいいだろうけれどもね」
「よかろう。話はわかった。どっちみち金になることなら、オレはなんでも辛抱だ。できるだけ余計の金になるように、一ツじッくり考えるかな。また来るぜ」
話が分れば、面倒は云わない奴。アッサリと立ち返った。
さて、その夜のことである。お米、お源、花亭の三名が、いずれへか行方知れず、掻き消えてしまったのである。
三名の行方不明は当分外へはもれなかった。お久美という正真正銘の本妻と、お園という正真正銘の実子が現れたから、案に相違、長居をしても恥をかくばかりと夜逃げしてしまったのだろうと、みんな笑って、それ以上には考えなかった。
これを疑ったのは八十吉である。お米お源が居なくなれば、強いてお久美を本妻にもどすには当らないから、充分の見舞金をつけてお久美お園を駿河橋へ帰してやった。なんしろ、鮫河橋では前代未聞の大金、人の噂が大変だ。それからそれへと尾ヒレがついて、世間一般の噂になり、警察の手がうごくことになったのである。
★
警察が手をつけた時は、その日から三ヶ月の余もすぎていた。三名の姿が消え失せた時、その部屋がどんな風になっていたやら、その記憶もマチマチで、てんで、よりどころというものがない。たよりに思うのは、この屋敷の味方でもないらしいお久美、お園、八十吉という鮫河橋三人組だが、これはお客様、むしろ風来坊的存在で、その現場などにはタッチしていないから、どうにもならない。そこで新十郎の出馬を乞うことになった。新十郎とても、現場の様子が皆目手がかりがなくては、どうすることもできない。一応その部屋部屋をしらべ、当夜の状況をきいてみたが、これも要領を得ないのである。新十郎が煮えきらぬ顔、まるで投げたように気乗薄であるから、虎之介は、ここはこの先生の心眼あるのみ、と、氷川の海舟邸に参上、逐一事の次第を物語って解決を乞うた。
「お米お源花亭の三名は塩竈に立ち返っちゃアいないのかえ」
「ハ。それはもう立ち返ってはおりません。松川花亭は生国不明でありますが、旅
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