を入れるのは、いつごろからの習慣ですか」
「私が当家に嫁しましたとき、すでに当家の習慣でした」
「甚八はお茶を一息にのみほしたそうですが、あなたは見ましたか」
「見たような気もしますが、そうでないような気もします」
「あなたは、いま、何が一番気がかりですか」
「東太のことが気がかりでございます」
 それから新十郎は東太のことを話題にして、その幼少のころのこと、今のこと、いろいろと何十分もきいたアゲク、訊問をうちきったのである。
 それから新十郎は千頭家へ赴いて、ギンとソノをよび、千代が茶を入れる時の動作をよく思いだすように命じて、二人にそれを実演させた。
「別に変った様子、変った挙動はなかったのだね」
「変ったことは一向にございませんよ」
「その塩の壺を持ってきてごらん」
 女中から壺をうけとると、中をしらべていたが、つまんで舌へのせてみた。彼はすぐ吐きだして、
「たしかに塩だ。この塩の分量が、近頃メッキリへらなかったかね」
「そんなことは気がつきませんね」
「ヤ。ありがとう」
 新十郎の調査はそれで終りであった。
「さア、東京へ戻りましょう」
 彼は二人の連れに云った。
「いったん東
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