アタゴ山とはだいぶ違わア。だがナ。神田の甚八を見損っちゃアいけねえぜ。オレが十日もコンをつめりゃア、江戸城だって築いてみせらア。ハッハ」
 問題は道なき山の頂上へ登る手口の発見だ。山へふみこむと山の姿を見失う。そのとき己れの位置と方角をいかにして正しく知るかという問題だ。だが山中には越えがたい藪や絶壁が諸方にあるし、二日三日で仕上げのできることでないのは確かであった。
 明日はいよいよ二十一周忌の当日という夕方、甚八が疲れきって山から戻ってくると、珍しく離れから使いがきて、遊びにこないかという。行ってみると、天鬼を中央に、千代も入間夫妻もそろっている。天鬼は笑って、
「棟梁にははじめての挨拶だが、私は千代の兄で安倍天鬼という者だ。こッちの夫婦は入間玄斎という御家人くずれの通人だ。今度の招待には、棟梁もめっぽう面くらったらしいな」
「ヘッヘ」
「くわしい事情は私が説明しなくともみんな探りだしたであろうが、ハッハ。イヤ、あんたがこの村へきてからのことは、みんな知っとるよ。よくもまア足マメに一軒のこらず訊いて廻ったものじゃアないか。よほど面くらわなくちゃアできない芸当だが、しかし、癖《へき》
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