守って死に果てることを、亡き津右衛門も満足してくれるだろうと思います。もう二度とそのようなことを仰有って下さいますな」
 気品あくまで高く、余言を許さぬ鋭さ。しかし兆久天鬼とてもオメオメ引き下りはしない。尚もしつこく食い下って数日を重ね、その日中は何食わぬフリをして屋敷内をくまなく調べている様子であったが、ついに目的を果さず、千代のリンリンたる気魄におされて、むなしく退却してしまった。
 父と兄が去ると、千代はホッとした。そして亡き津右衛門の必死に示した指を追い、その意味を判じ先祖伝来の遺言を復活して東太に伝えるのは自分に課せられた一生の仕事であると心に誓うところがあった。
 さッそく仏間に入り、本尊の秘密の胎内から系図をとりだして調べた。この系図はまさしく慶長年間からはじまっていた。
 その系図の文字とは別に、何かこまかく書きこまれているのは、それが津右衛門のオジイサンが書き加えたという文字にちがいない。そのほかには書きこみがなかった。しかし、その書きこみには、別にそう重大らしいことは書いてなかった。
「千頭家は当地移住まで特に記すべき血統なし。初代津右衛門長女さだ」
 そこまでは当
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