は八十吉、清松、竹造の順で、それ以後は船員の階級順であったが、今村は臨時の乗員であるために下級水夫の上位、ほぼ全員の中間ぐらいに位していた。ドン尻がキンとトクの女子であった。真珠の数の有る限り、何回でもこの順序で自分の物を選び取ることを繰返すのである。これは畑中の発案で、彼としてはこれで公平と思っていたし、事実労資の分配率ははるかに差の甚しいものであったから、予測せざる現実が起きるまでは、誰一人異見を立てなかったのである。
日を重ねるに従って、上質で大粒の真珠がその数を増していた。こんな光沢の良い大粒のものが一ツでも自分に廻ればと思うような物が、忽ち全員に二ツも三ツも廻るような目ざましい収穫であるから、船員たちの潜水夫に対する態度にも多少改まったものが感じられるように思われた。
四十五日目のことであった。その化け物の如くに巨大な黒蝶貝を採ってきたのは清松であった。翌早朝、先ず畑中はその貝をとりあげて一同に示した。
「黒蝶貝の主だぜ。得てして、こういう怪物は神様の御神体と同じように、カラでなければ、とんだ下手物《げてもの》しか出ないものだて」
今迄の例がそうだった。しかし畑中は殻を
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