も知れないと、話をしてみたことがあるのですが、貧乏ザムライの売れ残りがイキのいい職人のカカアにもらえるもんですかい、という挨拶で、この野郎、とあの時ぐらい腹の立ったことはございません。生意気と申したらありやしませんでした。しかし言うだけのことはあって、読み書きなども相当にできましたし、洋学を勉強しようか、西洋の植木屋の極意書をチョット見てやろうか、なんて大きなことを申すような奴でした」
「浅虫家にいたころはチョイ/\遊びに来ましたか」
「めったに参りませんでしたが、たまに来ることはありました。浅虫家からヒマをとって後は、一度も参りません」
どうしても知りようがない。新十郎も処置なしと諦め顔、
「もうこれ以上は仕方がありません。三人づれの旅は今日で終ることに致しましょう」
虎之介はダラシなくアクビをして、
「イヤハヤ。ムダのムダ。莫大の時間と路銀を費して、鼠一匹でやしない。心眼の曇る時はそんなものさ。私は旅にでる前から、こうあることがピタリと分っていたね」
「イエ、泉山さん。決してムダではありません。甚しく重大なことが分ったではありませんか」
「キク子のニンシンのことだろうが、それぐ
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