草さんと植木屋の甚吉さんが奥へ召されてズッと出て来ませんでした。車夫の馬吉は棺桶を運んで来ましたが、運んできて、廊下まで持って参っただけで、これも手伝ってはおりません。正司様、一也様はまだ子供ですから、これも奥からは締めだされて、女中のたまりへいらして心配そうに奥の気配を気にしていらッしゃいましたよ。下男と植木屋はどういう御用があったのか、ズッと葬式の終るまで姿を見せませんでしたが、秘密がもれるといけないからでしょうね。私がヒマをもらう日になって、その時はもう、女中の半分はヒマをとってからですが、野草さんだけヒョッコリどこかから戻ってきました。私がヒマをもらう時はまだ植木屋の方は戻りませんでした。下男の野草さんとお医者の花田さんが、ゆすっていたのは当然ですとも。旦那様は自殺ではありませんね。誰かが殺したのです」
「誰が殺したと思うね」
「それは分りません」
 ツネは言葉を濁してニヤニヤしたが、
「私は奥づきの女中ですから、存じていますが、お嬢さまはニンシンなさっていたのです。殆ど外出をなさらないお嬢さまがですよ。家族のほかに男気なんてない筈の奥にひッこんでいらッしゃるお嬢さまがネ。これ
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