ける初々しい色気が溢れたっているのであった。咲子も思わずその美しさにひきこまれて、ウットリと、うれしい気持になる。けれども、その血のことを考えると、どうにも切なく、可哀そうで、たまらない気持になるのであった。
そして、ただ一人、うきたつ人々に背をむけ、たのしげな姉に皮肉な視線をジッとそそいでいる一也の心が、うなずけもするのである。あの血を負うて、うれしい嫁入りとは。怖しく、暗くもなろうではないか。あの血を承知でキク子を貰う花田医師の心が解せなかった。あるいは神のようにひろく大きな愛の持主なのだろうか。あの粗暴な礼儀知らずにも拘らず。あるいは、又、一也が疑っているように、悪魔の心の人であるなら、花田は何を企み、何を狙ってキク子を嫁に貰うのであろうか。考えてみると、あまりにフシギで、あまりに陰惨で、人の世の常識にかけはなれすぎている。まるでワケがわからなかった。ただ、何か悪いことが起らぬようにと、咲子は小さな胸をいためていたのである。彼女の胎内でも子供は育って、これも次第に生れる日が近づいていた。
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あと十日ほどで結婚式という浅虫家にとっては慌ただしい一日のこ
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