がでたり、十年ぐらい前から大して苦労もしないのに石油がでて、前途益々有望、居ながらにして益々大金がころがりこむこと明々白々、まったくお金などというものは、この家にとっては湯水と変りなくタダで出てくるものなのである。
 これより石油の大会社をつくり、大発掘しようというので、薄ノロの正司は多忙である。ところが良くしたもので、薄ノロながら、会社管理については、彼は決して薄ノロではない。もっともスギ子未亡人という才媛が背後に控えてサイハイをふるい、一々指令を発している。正司に自ら発明する才がなく、小才をはたらかそうとする野心がないだけ、却って危気《あぶなげ》がない。二十三の若冠ながら充分に社長の重責を果している。咲子の知りそめた書生のころとは打って変って、日に日に貫禄がついてくるから、咲子も案外な思い、あらためて、たのもしくも、いとしくもなる思いであった。結婚したてのころとちがって、正司を訪ねてくる人は、立派な大紳士、大紳商という見るからに威風堂々たる人々で、正司はそれらの人々と何のヒケ目もなく談議している。若僧だけに、甚だひき立って、大紳士にもまして立派に見える。咲子もいつまでも牛肉屋の娘の
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