明治開化 安吾捕物
その五 万引家族
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)良人《おっと》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)海抜二千|米《メートル》ほどの

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)キョロ/\と
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 スギ子未亡人はシンは心のあたたかい人のようでもある。嫁入道具というものを一切持たない咲子の着物のことに気を使ってくれて、季節々々の着物を自分で見たてて作ってくれる。顔に親切を見せないし、優しい言葉をかけてくれることも殆どないだけ、シンの親切が身にしみるのだが、しかしとりつく島もない。威厳があって、キリリと見るからに利巧らしくて、うちとけることも、甘えることもできないのである。
 その未亡人に、万引という病癖があると知って、咲子は呆気にとられた。病気というものは、奇妙なものだ。実に厳然として威風そなわり、見るからに利巧そのものの大家の奥様が、万引をするとは意外なことだ。買う金は腐るほど有り余っている大富豪なのである。おまけに、金庫のカギは未亡人の手中にあって、自分で使うぶんには誰に
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