かり、長マントのように全身をつつむのである。人力にのれば膝かけとなり、百花園へ行けば座ブトンになり、馬車にのれば被り物にもなるなどと当時も言われた程のもの。しかし明治二十年前後には一世を風靡した婦人の流行服装なのである。
こういうもので鼻から下をスッポリ包んでいては、人相はシカと分りッこない。
「行李のようなものを運ばせたのではないか」
「いえ。行李なんぞ持ってやしません。ちょッとした包みを持っていましたが、カサはあるようでしたが重い荷物ではございませんでしたね」
まったく符合するところがない。
しかし、署の老練家のうちにも、死体を点検して、捨吉の犯行を疑っている者もあった。殺し方がむごたらしい。ノドをしめて殺しているが、両の目に一寸釘をうちこんでいるのである。手ごめにして殺しただけの捨吉が、こんなむごいことをするであろうか。又、汚物をふき去って、シサイにしらべてみると、暴行されたような形跡がない。
だが、又、他の老練家は説を立てて、
「ナニ、一寸釘を両の目に打ちこんだのも、二人の車夫に化けたのも、みんな捨吉のカラクリなのさ。暴行された跡がないのは、自宅で存分慰んだあげくだから
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