んだから、今度は夢之助にかかりきるというわけかね」
 と、新十郎は珍しく苦々しげに皮肉を云った。
 連行した容疑者一同は署に泊めおくことにして、新十郎がでかけたところは、根岸の夢之助の妾宅であった。召使いをよんで、
「十一月三十日に、夢之助と荒巻の両名が揃って戻ってきた筈だが、それは何時ごろだったね。楽《らく》の翌日の荷造りの日だよ」
「ハッキリとは覚えていませんが、夕方ちかいころでしたね。これで一段落、忙しい用がすんだ、と、すぐお酒盛でした。まだ日のあるうちに、疲れた、疲れた、とおやすみでしたよ」
「寝室は二階だね」
「旦那がお見えになると二階が寝室ですが、荒巻さんと御一緒の時は、そこの離れのような小部屋でございます。玄関からはどこよりも離れていますし、雨戸をあけると、誰にも見られず裏木戸へ抜けられます。荒巻さんは帽子も靴も荷物も一切合切この離れへ持ちこんで、イザと云えば逃げだす用意をととのえて、おやすみになるんですよ」
「二人はグッスリねていたかね」
「そんなことは知りやしません。ただ夜の十時ごろ水をと仰有ったので、お届けしましたが、荒巻さんの方は眠っていました」
「その晩、中橋さ
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