ロク。娘アキ六歳。倅国太郎二歳。太鼓打。正一。妻ボン。倅馬吉当歳。
 手妻。柳川蝶八。手妻。同人妻金蝶。娘ラク三歳。
 四月十一日横浜出帆。追々各地を廻り、同年暮サンフランシスコ興行中、銀主三与吉の家族多勢なるを好まず、演芸に必要なる者を残し、他を船にのせて送り返さんとす。三与吉怒りて銀主を殺害せんとして大負傷を負わしめ彼の地の警官に捕縛せられたるに自殺して果てたり。一同途方にくれたるに、軽跳の梅之介は心ききたる者なれば、新に蝶八を長として一団をくましめ、己れは彼の地の商社に入りて実業を学ばんとす。時に妻柳川小蝶を離別し、かねて懸想せる三与吉の後家をめとりて一団を離る。浜作の妹カツも情を通ぜる仲なれば梅之介を恨み自殺して果てんとして遂げざりしという。梅之介、本名、英太郎、今日中橋商事の社長にして貿易界の一巨材たり。蝶八は一団を率いて南米北米を打ち廻りあまた艱難を重ねたるのちブラジルの地に客死せり。時に明治七年なり。取り残されたる一団は解散し、金次、慶吉らは本国に帰着せるも、彼の地に窮死せる者、行方知れざるもの多し。小蝶は黒人と結婚して曲馬団に加わり七八年がほど欧米を巡業せるも、のち失明
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