ろでは、はじめての旅興行で、大方新品、こんなのは無かったようです。しかし、この型の行李は芝居小屋ではよく使う物ですから、近所の小屋のものかも知れませんなア」
「中橋が芸人あがりであることや、夢之助が倶に渡米した芸人の娘だということは、本当ですか」
「結城新十郎ともあろう物識りが、それを御存知ないとは恐れ入りましたなア。芸人雑記という本の『川富三与吉』の項目を読んでごらんなさい。この警察署の前の貸本屋にもあるでしょうよ」
そこで新十郎は貸本屋からその本をとりよせた。行方不明の中橋英太郎について知る必要があったからである。そこに誌された記事は又もや甚だ意外きわまるものであった。その記事は次の通りである。
川富三与吉。軽跳。明治四年米人ハリマンに招かれて渡米す。一行次の如し。
軽跳。三与吉。妻ハナ。
コマ廻し。松井金次。妻小まん。娘フク八歳(コマの中に入る)ツネ五歳。倅《せがれ》良一当歳。
軽跳。梅之介。手妻。同人妻柳川小蝶。連れ子ヤス五歳。
綱渡。浜作。三味線。妹カツ。カツの娘スミ四歳。
曲持足芸。慶吉。右上乗。三次。後見三太郎。妻ミツ。倅参次三歳。上乗又吉。笛吹。当松。妻
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