二ヶ月たちまして、本年二月中ごろに、又々同じような事件が起りました。音羽《おとわ》の山林の藪の中に、佐分利ヤス、マサと申す母子が、ノド笛をかみとられ、腹をさかれ肝臓を奪われてことぎれておりました。母が三十五、娘が十八、どちらも大そう美人でありましたが、これを調べてみますと、久世山の天王会、俗にカケコミ教と申す邪教の信徒であることが分りました。先の幸三が同様にカケコミ教の信徒でございますから、ここに捜査方針が一転いたしましてございます。三人とも平信徒とはちがいまして、役附きの幹部級、いずれも夜更けて教会の帰路に殺害せられたのですが、幸三は久世山から大塚へ帰る途中、佐分利母子は雑司ヶ谷へ帰る途中でございました。護国寺界隈には業病人が集っておりますから、この見込みも捨てるわけにはいきませんが、カケコミ教が臭いというので、内偵をすすめることになりました。ところが、これがまことに難物、天王会には後援会がありまして、会長が藤巻公爵、副会長が町田大将、その他いずれも天下の名士ぞろいでございます。確たる証拠もなくムヤミに拘引して取調べると後の祟りが怖しゅうございますから、密偵を放って内偵をすすめること
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