に偶然てえものは、まことにヤッカイなものだ。修作にも意外であるが、新十郎の頭にも、こいつだけは手に負えねえや。オレが現場に立ちあっても、新十郎と同じことさ。偶然のことは、又、偶然によるほかには、人智によって知り得ないものだ。オレが加助を犯人と見たのは間違っていたが、現場に立ちあっていないのだから、仕方がねえのさ。だが、加助のような人望のある実直者がまま犯人だてえことは、よくあることだから、一度はそこへ目をつけるのを忘れちゃアいけないものだ。部屋にこぼれていた土に曰くがあることはオレがチャンと見ていたことだが、すると犯人は加助か修作かどッちかだということになる。加助にきめてしまったのが、オレのマチガイの元なのさ」
虎之介は海舟の読みのひろさに益々敬服の念をかため、その心眼の鋭さに舌をまいて、謹聴しているのである。
底本:「坂口安吾全集 10」筑摩書房
1998(平成10)年11月20日初版第1刷発行
底本の親本:「小説新潮 第四巻第一二号」
1950(昭和25)年11月1日発行
初出:「小説新潮 第四巻第一二号」
1950(昭和25)年11月1日発行
※底本は、
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