根性もひがんでいる。帰参がかなったのは嬉しいが、元へ戻ったところがタカが番頭じゃア仕様がない。貧乏をしてみると、魔がさして、よけい上をのぞむようになりがちなものさ。藤兵衛を殺してしまえば、犯人と疑られるのは三行り半をつきつけられたお槙と勘当された芳男の両名にきまっている。帰参がかなってヤレ嬉しやという加助が、疑われるわけはねえのさ。藤兵衛から放逐されるときまった修作が、藤兵衛なきのち、居すわるかどうかは分らないが、居すわるにしても、修作一人が番頭じゃア店のタバネができないから、世間に人望のある加助がむかえられて大番頭の地位につくのは火をみるよりも明かだ。アヤは胸に病いがあるから遠からず死ぬだろうし、川木の屋台骨は自然にそっくり加助のものになってしまう。世間に人望があるから、加助が主家をわが物顔にきりまわしても、誰も何とも云わねえのさ。加助はそこまで見ているぜ」
 海舟はナイフと砥石をしまいこんだ。
「加助はいったん主家を辞去すると、裏から塀をのりこえて、土蔵へ忍びこんだのさ。たぶんお槙と芳男の叱られている最中に忍びこんで隣室に隠れていたのだろうが、お槙と芳男が三行り半と勘当を云いわたさ
前へ 次へ
全51ページ中40ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング