だしたというが、奴めは、お槙が殺したに相違ないと考えているだろうよ。お槙は悪い女だ。警察の調べがとどいて、お槙があげられる、心細いの一念、可愛い憎いで、芳男と一しょに殺《や》りました、と云いかねない女なのさ。芳男が怖れて戸惑って逃げまわったのは、その心配があってのことだ。しかし、お槙は犯人じゃアないぜ。女が酔っ払って男を一刺しに突き殺せるわけがねえや。惚れて油断のある男でも、女の腕で一刺してえのはむつかしいものだ。まして藤兵衛はお槙に三行り半をつきつけたその日のことだもの、酔ったお槙に刺し殺される不覚があるわけのものじゃアないのさ」
 海舟は片手の指から悪血をとると、今度は別の片手の指をチョイときって、悪血をとりはじめた。
「新十郎が見ている通り、藤兵衛の隣室にこぼれていたという土が曲者なのさ。犯人は、お槙が三行り半をつきつけられ、芳男が叔父甥の縁をきって勘当されるてえこと知っていた男だ。それを知っていたのは加助のほかにはいない。あの男がと世間ではビックリするだろうが、真犯人はままこうしたものさ。加助はヒマをだされて藤兵衛を恨んでいる。実直者だけに恨みが深いのさ。五ヶ月の貧乏ぐらしで、
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