ますと一時でしたが、そんな時間のことを云ってはいられませんので、土蔵の二階へ上ってみますと、戸口は相変らずカケガネがかかっていまして、女中も諦めたとみえて、夜食のお握りが戸の外においてありました。手燭の光でみますと、カケガネはかかっていますが、釘がさしこんでないようですから、隙間から爪楊枝をさしこんで鐶をもちあげると、なんなく外れました。中へはいってみると、もうその時には叔父さんは殺されていたのでございます。すぐ逃げだせば血はつかなかったのですが、私が呼びつけられて叱られたときに、落してきたものと見えまして、私のタバコ入れが、死体のかたわらに落ちております。血をふまないように用心に用心して、それを拾って逃げましたが、部屋をでるときにふと気がついて、もう一度隙間から爪楊枝をさしこんで鐶にかけて外からカケガネをかけてしまいました。土蔵をでると、にわかに怖しくなって、そのまま夢中で外へでてしまいましたが、まるで自分が犯人のような気がしたからでございます」
「そりゃアそうさ。真夜中にカケガネのかかっているのを外して勘当の詫びをのべに行く奴はいないよ。お前は藤兵衛を殺すつもりだったのだろう」

前へ 次へ
全51ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング