年もの馴れッこで、縁日なんぞ、そうブラつきは致しません。この一日から十五日まで、寄席の金本に、円朝がかかっております。西洋人情噺、十五日の連続ものでございます。今月の金本は前代未聞の大興行と申すのでしょう。円朝、円生、円遊、円右、馬車の円太郎、ヘラヘラ万橘、金潮、新潮の落語、手品が、西洋手品天下一品の帰天斎正一に女テジナの蝶之助、水芸の中村一徳、鶴枝の生人形、そこへ新内が銀朝ときてます。ほかに女清元の橘之助、女新内の若辰などと、一流どころの真打をズラリとそろえた番組、こんな大それた番組は二度と再びあることではございません。なんでも、秋葉原へかかっている茶リネの西洋曲馬団が大そうな人気だそうで、それに負けない人気番組を特に興行しているらしゅうございますよ」
 茶リネの西洋曲馬というのは伊太利《イタリー》人チャリネのひきゆる二十数名の外人一座、八月に来朝し、秋葉原に興行して、東京中をわかせるような大評判をとっているのである。
 愛想のよい修作はニコニコとおシャべりをつづける。
「私は今月の金本には初日から通いつめております。名人ぞろいのこととて、一々が面白うございますが、特に円朝の西洋人情
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