そろそろ出発いたしましょうか」
虎之介は有項天によろこんで、口もとから自然にほころびる笑みを抑えるから、
「オヤ。どちらへ?」
「加納家へ参りますよ」
とうとう我慢ができなくて、虎之介はゲタゲタ笑いたてて、
「オヤ、あんなところへ、何御用で?」
「さては泉山さんは犯人を見つけましたね。おはずかしいが、おそまきながら、私はこれから犯人を突きとめに出かけるのですよ」
こう愛想よく新十郎におだてられると、虎之介はもう我慢ができない。柱によりかかって、背中をねじくりながら、ゲラゲラ、ゴロゴロと喉の中をスポンジボールがころがるような奇怪な音を発してとめどなく笑いくずれている。新十郎は晏吾に命じて、
「お前は風巻先生を御案内して、後から加納家へ来るように。先生は待ちかねて、いらッしゃるだろうよ」
こう云い残して、四人はつれだって、加納家を訪ねた。速水星玄は今日はチャンと警視総監の制服をきて、部下をひきつれて、新十郎の到着を物々しく待ちかまえていた。制服をきせた姿は、国威を失墜したことなどはトンとなかったようにりりしく見える。新十郎を見ると、進みでて握手して、
「杖とも柱とも頼み申しておりま
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