ている。
 虎之介を見ると花廼屋はよろこんで、
「ヤ。お帰り。大探偵。とうとう犯人を見つけなすッたね」
「ハッハッハ。貴公の心眼はどうしたエ」
「ナニ。犯人はフランケンさ。顔は優しいが、根は西洋手裏剣の使い手だ」
「ハッハッハッハ。しかし、フランケンを見ているとこは、田舎通人にしては、出来すぎている。色とみせて別口のあるところが非凡だな。お前には荷が重かろう」
 そこへ鹿蔵が疲れきってやってきた。この老巡査は性来至って鈍根だが、うけた命令は馬鹿ティネイにあくまで果してくるという長所をもっている。昨夜新十郎に命じられたことを、殆ど寝もやらず駈けずりまわって、今しも戻ってきたところだ。新十郎のかたえににじりよって、
「夕月で待っていたのは、中園弘でございます」
「ヤ、加納さんの第一番頭、三年前に行方不明をつたえられている中園ですね」
「さようです。夕月の女将には腹蔵なく話しておいてくれましたので、さいわい知ることができましたが、その日の午ごろ見知らぬ男が、中園の使者と称して現れまして、ただ今シナから戻ってきましたが、まだ仕事が完成しておりませんので姿を現す時期ではないが、御前に御報告だけし
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