棒をかつげ。オレは後棒だ。野郎を乗っけちゃいけないぜ。美人、美人。ナ。野郎をのッけると、放りだすから、そう思え」
 大変な警視総監があったもの。
 ハラショーと、大坊主のカケ声もろとも、二人は山カゴをかついで、舞踏会場へ躍りこんだ。
 総理大臣善鬼はヨロイ、カブトに身をかため、軍配を片手に、ひどく落着いた扮装であるが、実はチャメロスの方を見てはハラハラ、いったいお梨江嬢は何をしているのだろう、いつ現れるのだろうと、居ても立ってもいられぬぐらい気をもんでいる。
 チャメロスも内々イライラしているらしいが、それを見てとって、まるでからかうかのように彼の側から離れずさッきから話しかけているのは、神官に扮装した典六である。
 フランケンはと見ると、これはマスクをかけただけ。そして、同様マスクだけのアツ子とくんで踊っている。神田正彦も来ているはずだが、何者に扮装しているのか、彼の姿は見つけることができない。
 善鬼はたまりかねて、雲助の五兵衛をよびとめて、
「お梨江嬢はどうした。いまだに姿が見えんじゃないか」
「ハ? イヤ。すでに来ているはずですが、見こぼしておられるのではありませんか」
「バカ
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