ておいでです。チャメロスさまをみちびいて庭の静かな木蔭の芝生へいらッしゃるのがよろしいわ。そして壺の中からウイスキーをとりだして、大使さまにおすすめあそばせ」
スソのながいネマキをきたようなヴィーナスと、毛布を裸体にまきつけたようなサルタンと芝生で酒宴とは奇怪な話。ピンかなにか急所をチョイと外すと、今のストリップ式にどっちもハダカになるのはワケがないという段取りに見える。
アツ子は善鬼や五兵衛の手先ではなかったはずだが、にわかに片棒かついだかと思うと、大名の娘というものは威張りかえって勝手なことを命じるものだ。
「私はね。壺の中からコブラだすわよ。イー」
お梨江は大名の娘を睨みつけて、ヒラリと体をかわして逃げだした。
しかし、大名の娘ともなれば、先祖代々つたわッたる警備の魂、トノイを侍らし、番人をつけ、隠密をさしむける本能は後日に至っても失せたことがない。アツ子の腹心の女どもが要所要所にはりこんで、お梨江はとうとう脱出不可能と相なった。
五兵衛はその日、早く戻って来客を接待すべきであるのに、いつまでも戻ってこない。来客が半数ちかくも来たころになって、人力車を急がせ、ころげこむ
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