方々のね。小包がくるでしょう。すぐ隠して持ち去るでしょう。あんまり様子が変だから、あの子の留守にお部屋を調べてみたのです。荷物の底へ、同じような毛はえ薬がたくさん隠してあるでしょう」
 妹は、たまらなくなって、腹をかゝえて笑いころげてしまった。
 つまり、おトンちゃんは、あるべきところに毛がなかったのである。
 残酷にも毛はえ薬の秘密をあばいた妹をどんなに憎んだか、おトンちゃんの踏みつぶされた逆上自卑は悲痛である。
 タシナミなく腹をかゝえてゲタゲタ笑う妹であるから、おトンちゃんと毛はえ薬を前にして、その時もゲタゲタ笑いくずれたに相違ない。
「あの子の根性のヒネクレ方は例外よ。陰険といったって、あれほどの陰険さがあるかしら。あれほど可愛がってあげているのに、恩を仇で返すなんて」
 と、妹は、そのときも、こう附けたして悲憤の涙を流さんばかりであったから、おトンちゃんの悲痛な心事に、今もって、思い至っていないのである。鬼だと云うであろう。云わずには、いられぬであろう。妹の世間知らずは、度しがたい。
 おトンちゃんへの悪感情を私は一度に失っていた。
 私の頭がハゲていると分ってのちのサンタン
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