ゞごとじゃないわ。だから、たとえば、その恋人は、刑務所かなんかに居るんじゃないかしら」
「ふうむ」
これも、一説である。
すると、妹は、もう、それにきめてしまった。名察に気をよくして、益々おトンちゃんをいたわり、ヒイキに、可愛がってやっていた。
★
私は五十日ほど旅行にでた。風流な旅行ではなかった。
帰ってみると、母と妹はそのまゝだが、近所の農家の娘が手伝いに来ており、おトンちゃんの姿がない。
「おトンちゃん、どうした」
ときくと、食事を途中にして、妹は急にサッと顔色を変え、苛々と癇癪の相をあらわし、プイと立って、どこかへ行ってしまった。
「十日ほど前、ヒマをだしたよ」
と、母が説明した。
不思議な噂が、その日、妹の耳にはいったのである。おトンちゃんが近所へ言いふらしているというのだ。あそこの兄さんは良い人だけれども、妹の方は鬼のような人だ。私を苦しめて、よろこんでいる。あんな鬼のような女の家にはいたくない。どこか、ほかに、つとめたい。
妹は驚いて、直に調査にかゝった。近所を一々きいて廻ると、たしかに事実である。妹はまさしく鬼になって、戻ってきた
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