浜に出動する。徒労。悲報のみ、つゞいて至る。
深夜、十二時十分前、もみじ旅館の玄関に女中たちのカン声が上った。呉氏がひとりヒョウ然と現れたのである。
僕らのまつ部屋へ現れるや、ボク、おフロへ、はいりたい。すぐ、フロへはいる。
そこで、僕及び新聞社の人々、別室へ去る。両棋士にゆっくり眠ってもらうため也。
翌朝、八時に、両棋士を起す。呉氏、食卓へ現れるや、食膳を一目みて、オミソ汁、と言う。オミソ汁が呉氏のところになかったのである。持参の卵ひとつ、リンゴひとつ、とりだして、たべる。
世紀の対局は、閑静な庭の緑につゝまれた二階である。
実質的に、名人戦である。呉氏が勝つや、囲碁第一人者は、中国へうつる。これが日本の棋界は怖くて、名人戦がやりにくかったのかも知れないが、そんなに狭いケツの穴ではいけない。
各種の技芸に日本が世界の選手権をめざす今日、他国人に選手権をとられることを怖れてはならぬ。むしろ、それが国技の世界的進出ではないか。この対局を受諾した本因坊は、偉い。彼は実に美しく澄んだ目をしている。
本因坊も、呉氏も、羽織、はかまに改めて、対局場へ現れる。
試合開始、サンマー
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