が力を合せて元のようなミササギをつくるから。これ、この通りだ」
六太郎は手が地面へつくほども腰と膝を折りまげて声涙ともに下る挨拶であった。
それに合せて「どうぞゴカンベン。この通り」とみんなが同じことをした。
久作は返事をしなかった。だまって歩きだした。六太郎が慌てて抱きとめるようにして、
「その身体では無理だ。車の用意があるから乗ってもらいたい」
キャベツやジャガイモを運ぶリヤカーに久作をのせ、一同がそれをひいたり押したりして山へ戻ったのである。道々誰が話しかけても久作は答えなかった。
リヤカーを押し上げて杉の林をぬけ保久呂湯の下へでると、女たちも集ってきて、頭巾をはずし、
「このたびは、御苦労さまでした。どうかカンベンして下さい」
と口々にあやまった。リンゴ園でそれを見た中平はいそいで家の中へ逃げこんで、壁の二連発銃をはずし、それを膝にのせてガタガタふるえて坐っていた。
久作はわが家へつくとノコギリを持って外へでた。人々は呆気にとられて見送った。彼はまっすぐリンゴ園へ登った。そして夕方までリンゴ園のリンゴの木を一本のこらず伐り倒したのである。中平は鉄砲を持って縁側まで
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