シマの財布はどこからもでなかった。久作の家も捜したが、どこからも札束はでなかった。意外な収獲としては「保久呂天皇系図」という久作の新作らしい一巻の巻物が現れたことである。天照大神からはじまり久作らしき天皇で終る最後に、
「この天皇眼の下に大保久呂あり保久呂天皇の相なり裏山のミササギに葬る」
とあって、どうやらあの山と石室が保久呂天皇のミササギであったことが判明したのであった。
十日あまりで保久呂天皇は元の元気な姿になった。
「あれが保久呂天皇のミササギとは知らないものだから、こわしてしまって気の毒したが、その代りお前の命は助かったし濡れ衣もそそがれたからカンベンしてくれや」
と云って駐在所から送りだされたのであった。駐在所の前には中平をのぞく部落の戸主が全員集っていた。彼らは最敬礼して久作の出所を迎え、まさに土下座せんばかりの有様であったのは、保久呂天皇を確認したからではない。
「さてこのたびはまことに申訳がない。濡れ衣とは知らず一同が手を下してミササギをくずしてしまったが、これは警察の命令で仕方がなかったのだから、まげてカンベンしてもらいたい。お前がそうしろと云うなら部落全員
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