穴へ戻ってくる。穴の方が住み心地がよいからだ。穴の中にいると、安心していられる。誰もこの穴をどうすることもできないという安心だ。そして穴に閉じこもっているうちに、濡れ衣の方は次第に忘れて、誰もこの穴をどうすることもできないという安心の方にひたりきってしまうようになったのである。
五日たち、一週間たち、しかし断食のはずの久作が大そう元気よい足どりで野グソに行ったり水をのみにでかけたりする姿を見かけ、親たちに戒しめられて近よらなかった子供たちが穴のまわりに集るようになった。
リンゴ園からこれを見て喜んだのは中平だ。さっそく穴の前へやってきて、
「お前たちよい子だからこの山の土をくずしてくれ」
そこで子供たちが土をくずしはじめたから、これを見ておどろいたのは親たちで、駈けつけて来て子供をつれ去った。そのとき一人の親がこう云って子供を叱った。
「たたられるぞ! このバカ!」
穴の中の久作はこの親の一喝にふと目をあいて考えこんだ。
すばらしい言葉だ。部落の者が自然にこの言葉を発するに至っては本望だ。神のタタリ。天のタタリ。天皇のタタリ。タダモノがたたるはずはないのである。
この部落に
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