だ」
「理ならオレが説いてやろう。オレの盗まれた金のことはオレが誰よりも考えている。部落の者でなければ盗むことができないとオレが知っている。この部落から大盗人をだしたのはお前たちの大責任問題だぞ。今後オレをだまそうとすると承知しないからそう思え」
 六太郎はアベコベに大目玉をくらって戻ってきた。しかし中平も部落の全員を疑ることが不穏当だということぐらいは分っている。日がたつにつれて次第に容疑者が心のふるいにかけられて、最後に二人残ったのである。中平の心のふるいは裁判官のふるいとは大そう違っていたけれども、彼自身にだけはヌキサシならぬふるいで、それだけの理由はあった。最後に残った二人は保久呂湯の三吉とメートル法の久作で、つまり年来彼と仲が悪かったところに絶対的とも云ってよい理由があったのである。
 保久呂湯の三吉は彼に次ぐ金持で、彼の虎の子を奪えば村一番の金持になるから、これがまたヌキサシならぬ動機の一ツである。登志と情を通じ甘言で登志を酔わせてシマの財布を盗み何食わぬ顔をしていることは、彼のようにコスカライ奴にはわけがない。小男で胃弱で蒼ざめて猫背で、そのような奴に限って性慾が強くて、
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