会長の六太郎が総代となって彼を訪ねて、
「部落の者はお前のおかげで仕事にもさしつかえているが、家宅捜査をやめてくれないかね」
「大泥棒が現れたのは部落全体の責任だから、犯人がでるまで協力するのが当り前だ」
「しかしだね。犯人が部落の者だとは限らない。保久呂湯へ泊っていた七ツの子供までお前のシマの財布のことを知っていたぐらいだから、去年保久呂湯へ泊った客も、オトトシ保久呂湯へ泊った客もみんなシマの財布のことを知っていたに相違ない。その中の悪者が姿を見せずに忍んできて盗んだかも知れないではないか」
「それはだます言葉だ」
「なにがだます言葉だ。保久呂湯へ泊った七ツの子供がちゃんと知っていたことはお前が子供の首をしめあげたのでも歴々としているではないか」
「なおさらだます言葉だ。ところがオレはだまされないぞ。オレの目には犯人が部落の者だということが分っている」
「その証拠を見せてもらいたい」
「盗まれた金はこの部落のどこかにある。金の泣き声がきこえてくる」
「それは証拠ではない。お前は神経衰弱のようだ」
「益々だます気だな」
「とんでもないことだ。理を説いてよく聞きわけてもらいたいという考え
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