を使うわけにいかないが、仕事はタンネンにやった。石ダタミも石の壁も三重四重に張ってセメントをつめ、天井石も落ちないように応分の工夫をこらした。石細工だけで四年もかかって、五年目から山の製造にかかったが、そのころ米ソの関係も険悪の度を加え日本の諸方に米軍基地の急造が目立つようになったので、さては水爆よけの防空濠を造っているに相違ないと部落の人々は考えた。部落の全員が、否、日本人の全部が死滅しても久作だけは生き残るコンタンに相違ない。あくまでメートル法に挑戦するのもケナゲなフルマイではあるが、二千メートルの山また山にかこまれているこの部落で小さな山を造っている久作の姿はなんともバカげたものに見えたのは確かであった。
「何メートルの山を造るだね」
とリンゴ園から見下して中平がからかったとき、久作はすでに完成している石室の中へ急いで駈けこんだ。いつまで待っても出てこないので中平がリンゴ園から降りてきてのぞいてみると、久作は坐禅を組んでいた。中平はふきだしたいのをこらえて云った。
「さすがに人間だな。タヌキやクマは穴の中でウタタネするだけだからな」
久作はジッとこらえて返答しなかった。そこで
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