のに、みんなやられて、ともかく、闘志で匹敵したのは尾崎と僕だけであり、さすがに僕も、この連中にはやゝつけこまれた形であった。
僕が碁に負けて口惜しいと思ったのは、この将棋の連中で、いつか復讐戦をやりたいと思っているのも、この連中だけだ。僕のような素性の悪い負けきらいは、勝負そのものでなしに、相手の人柄に闘志をもやすので、つまり僕と尾崎が、好敵手なのもそのせいだ。豊島さんや川端さんが相手ではとても闘志はもえない。
尾崎は本当は僕に二目おく筈なのだが、先で打つ、彼は僕をのんでかゝるばかりでなく、全く将棋さしと同様に、じらしたり、いやがらせたり、皮肉ったり、悪道無道のことをやり、七転八倒、トコトンまでガンバって、投げるということを知らない。そのうえ、僕を酔わせて勝つという戦法を用いる、つまり、正当では必ず僕に負ける証拠なのである。
彼は昔日本棋院の女の子の初段の先生に就て修業しており、僕も当時は本郷の富岡という女の二段の先生に習っており、断々乎として男の先生に習わぬところなどもよく似ていた。
戦争以来、彼は郷里に病臥して手合せができなくなったが、日本棋院も焼けてしまって、文人囲碁会も
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