碁会所クラブなどゝ試合をしたが、勝ったことは一度もない。豊島大将を始め至って弱気ですぐ投げたり諦めたりしてしまうから、他流試合には全然ダメで、勝つのは尾崎と僕だけだ。尾崎と僕は必ず勝つ。相手は僕らより数等強いのだが、断々乎として、僕らは勝ってしまうのである。
尾崎は僕より弱くて、僕と尾崎が文人囲碁会チーム選抜軍のドン尻だが、他流試合ともなると、敵手のドン尻は大概二三級で、本来なら文句なしに負ける筈だが、全く、僕はよくガンバる。こういう闘志は僕の方が、やゝ尾崎にまさっている。
僕が今迄他流試合をして、その図々しさに呆れたのは将棋さしのチームであった。将棋さしのチームは木村名人が初段で最も強く、あとは大概、三四級というところだが、彼らは碁と将棋は違っても盤面に向う商売なのだから、第一に場馴れており、勝負のコツは、先ず相手を呑んでかゝることだという勝負の大原則を心得ている。
相手をじらしたり、イヤがらせたり、皮肉ったり、つまり宮本武蔵の剣法のコツをみんな心得ていて、ずいぶんエゲツないことをやる。こういう素性のよからぬ不敵の連中にかゝっては文士はとてもダメで、実際の力はさしたる相手でない
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