分裂的で、強ひてする組織的脈絡がないといふことは、一章句が断定的でなく強ひて曖昧であることの効果と同じ理由で、それ自体が真実そのものであることを表面の武器としない代りに、真実を掴み損ねた手違ひは犯してゐないといふそれ自らとしては消極的な効能ながら、それによつて読者の神経に素直に受け入れられることができ、つづいて斯様に分裂的な数個の事情を累積することによつて、積極的な真迫力も強め得て、言葉以上に強力な作者の意志を伝へることもできやうと思ふのである。
 蛇足ながら最後に一言つけ加へておくと、私は「真実らしさ」の「らしさ」に最も多くの期待をつなぐものであつて、それ自体として真実である世界は、それがすでに一つの停止であり終りであることからも、興味がもてない。「らしさ」はあらゆる可能であり、かつ又最も便宜的な世界である。芸術としては最も低俗な約束の世界であらうが、然しともかくここまでは芸術として許されうる世界であつて、従つて最も広く、暢達な歩みを運ぶこともできるのである。表面の形は低俗であつても、最も暢達の世界であるために、結果に於て最も低俗ならざる深さ高さ大いさに達することができるのだ。左様な
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