なかつた私の毎日々々のホントの生活は、結局生活ではないのかも知れない。這般《しゃはん》の理窟は一々鮮明に色揚げしてみても無意味だと思ふのでやめるが、とにかく私は、私自身ホントに経験したままを直接描いたことは一度もないし、これからもないだらうと考へてゐるが、それにも拘らず私は作品を描いてのみ自分の姿や生活を見出してゐることは嘘でない。
この一文は結局これだけでは何か勿体ぶつたことの書き出しに過ぎないやうなものであるが、約束した枚数よりも余程多くなつたし、頻々と催促を受けるので筆を止めやう。私の論文なぞといふものは、何処から読みはぢめて何処で終つてもいい長篇随筆のやうなものだから。私は断片的にしか物が分らない。私は理窟が嫌ひなのである。
底本:「坂口安吾全集 01」筑摩書房
1999(平成11)年5月20日初版第1刷発行
底本の親本:「鷭 第一輯」鷭社
1934(昭和9)年4月11日発行
初出:「鷭 第一輯」鷭社
1934(昭和9)年4月11日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※新仮名によると思わ
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