動に及ぼす大きな効果を疑ふものではないけれども、差当つて私自身がその犠牲者にならなければならないといふ意味で、進んで支持する気持にはなれない。
新しく改革されるべき文字に不馴れな私は、私の思想活動の能力を減退せしめねばならず、私の生活の重大な意味を犠牲にすることなしに生きることができないからだ。私はそのやうな犠牲者になることはどうしても厭で厭でたまらない。だから私は、決して文字改革の先棒を担がうなどとは夢にも考へてはゐないのである。ただ速記者が雇へたらと、時々思ふことがある。異常な苛立たしさやもどかしさの中で悪魔の呪文の如くにそれを念願することがあるのである。私の貧しい才能に限度はあつても、いくらかましにはなる筈だ。
底本:「坂口安吾全集 03」筑摩書房
1999(平成11)年3月20日初版第1刷発行
底本の親本:「文芸情報 第六巻第一〇号」
1940(昭和15)年5月20日発行
初出:「文芸情報 第六巻第一〇号」
1940(昭和15)年5月20日発行
入力:tatsuki
校正:noriko saito
2008年9月16日作成
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