きり衰へた。
このやうに彼等の宗門に殉ずる一念たるや真に感動すべきであるに拘はらず、どうしても純粋に感動できないのは、彼等がもつと大きな世界の事情に認識をもたないことに対する不満などが有るせゐにもよるが、又一つには、彼等が外国人の指導によつて動いてゐたといふことに対する反感も忘れるわけには行かぬ。外国の宣教師それ自身に対しては反感は持てないのだけれども、外国人の指導に服すといふ日本人の信徒達に対して、どうしても打ち解けきれぬ不満を消すわけに行かぬ。島国根性の狭量と言つてしまへば、そんなものかも知れぬけれども、理知では割りきれぬ本性のひとつで、どうにも仕様がない。
僕は時局的な小説などは決して書く気持ちがなく、さういふ僕に人々は時局認識がないなどゝ言ふかも知れぬが、然し、僕は何を書いても決して間違ひがないといふ大いなる自信をもつてゐるのだ。なぜなら僕の本性に理知を超えて根を張つた祖国愛とか日本的性格といふものは目覚ましく強力で、文学といふものは、決してその本性を偽ることの出来ないものであるから、だから僕が真に誠実に文学に精進する限り、僕が何を書いても決して祖国の人々をあやまらしめるものを書く気づかひはないといふ自信を持つてゐるわけだ。
作家の中には支那事変以来小説が書きにくゝなつたと言ふ人もあるが、僕はあんまりさういふことを気にかけてゐない。何を書いても悪いことなんか書く筈がないと信じてゐるのだ。良いことをしよう、役に立たうとする意識なしに文学は有り得ぬのだから、作家は自信を以てたゞ文学に専念すべきであり、敢て人の思惑は気にかけぬ方がいゝと思ふ。
底本:「坂口安吾全集 03」筑摩書房
1999(平成11)年3月20日初版第1刷発行
底本の親本:「現代文学 第五巻第一二号」大観堂
1942(昭和17)年11月28日発行
初出:「現代文学 第五巻第一二号」大観堂
1942(昭和17)年11月28日発行
入力:tatsuki
校正:noriko saito
2008年9月16日作成
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