ほくそえんで一同とともに応接間に通り、皮張りのバカに大きな肱かけイスに身体をうずめた。
久々にシミジミ見る信二坊っちゃん、不自由はないはずだが、栄養充分の顔色でもない。やや、やせている。深窓に閉じこもっているせいか、なんとなく苦行僧のようなうッとうしいマナザシをしているところが面白い。一見、ノータリンに見えないからである。苦行僧は両の掌を卓上に組み合わせて一点を凝視していたが、
「文化祭の寄附とはオドロキですね。文化祭というものは、よそではもうかるものですよ」
と意外なことを言いだした。
「よそと申しますと、アメリカのことで?」
「いえ、もうこの村以外の津々浦々ですよ。ボクら、大学のころ、文化祭でもうけたものです。切符の売上げをタダ飲みしましてね。売上げを半分ぐらいごまかすんです。たのしかったものですよ。文化祭は、そういうものですね」
「入場料をとるんですか」
「当り前ですよ。アナタ、タダでやるつもりですか。呆れましたね。タダでねえ。タダほど人生につまらないものはないですね。ダイヤモンドもタダにすればつまらない石にすぎないですよ。アナタ、文化祭を石にするわけですね」
「それが、ねえ
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