りなんです。もうけているのは彼らですよ」
「その一万円、私にちょうだい」
「これは諸雑費の一部にどうしても必要な金なんです」
「私だって、必要よ」
「それなんですが、この深刻な農村不況を見て下さい」
「どこが不況よ。とても景気がいいじゃないの」
「税務署的見方ですね。ボクが裏の雑木林で炭を焼かせているでしょう。東京のアナタ方は四百五十円だの五百円でお買いになるそうですが、ボクが仲買人に売るのは一俵五十五円です。五十円と云うのを五円つりあげるのに数日の論戦が必要でした。ボクは泣かんばかりに訴えたのです」
「もう信じないわよ」
「御案内しましょう。農村の現状をつぶさに見て下さい」
信二はヤツ子を無理につれだした。街道へでるまで黙々と歩いていたが、
「町へでてみましょう。町は日本という魔物と農村が正面衝突して、農村の苦悶の呻き声がひしめいているところなんです」
バスを待って、二人は乗りこんだ。
「散歩のつもりで出ましたから、持ち合わせを忘れてきました。立てかえておいて下さい」
ヤツ子にバスの切符を買ってもらう。帰京の旅費があるのを見とどけたから、信二は愁眉をひらいた。駅前へつくと、信
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