くも手つだって、別に不平を云う者もいなかった。
「ストリップだしたら、もうかるべい」
という意見が圧倒的であったが、かの苦行僧はこれを静かに制して、
「いけません。かりにも、文化祭ですよ。生活を高めるものが、文化です。ボクの意見としては、ジャズバンドと美貌の歌手をつれてきたいと思うのですが、それも純粋な芸人でなしに、大学生のジャズバンドですね」
「アナタの母校ですね」
「そういう関係は意味ないです。大学生のバンドにも本職ハダシのがあって、高給で一流キャバレーへ出演しているのもあるのです。その一流どころをよびましょう。美しい女子大学生の歌手が附属しているバンドを狙いましょう。東都一流の学生バンドと美貌のアルバイト歌手。日劇出演。青春の花形。微風と恋、恍惚のメロディ。こんな、広告、いかが? 三十円の入場料で最低千枚が目標です」
大半の人々はまさかと思っていた。どうせお流れだろうが、とにかくこれも一興と万事を信二にまかせた。
信二は青年団の団長に正式の契約書数枚を作らせて、これを握って出演契約をとりに上京した。数日して、目的通り契約をとって戻ったばかりでなく、青春の花形、微風と恋、恍惚のメロディ云々というビラ百枚と入場券五千枚を持ってきた。印刷屋にも青年団の契約書を入れてきただけで、手金も払っていない。この借金を撃退するのが、また彼の後日のタノシミなのである。
信二は青年団の重役連三十名の男女に切符を分配して、
「近郷近在、手づるをもとめ、顔をきかせて、売れるだけ売って下さい。全力をあげることですね。売上げをあんまり使いこんじゃいけませんね。半分は持ってきて下さらなくちゃア、雑費が払えませんから」
ニコリともしないで重大な訓示を云い渡した。男女三十名の重役連、訓示の重大さに気づいたのは、信二の家を辞してからであった。
「売上げをあんまり使いこんじゃいけませんね、と。たしか、そう云ったねえ。アンマリ、と。アンマリか。ちッとはいいのかい?」
「半分は持ってきて下さらなくちゃアと仰有ったわねえ」
「ウウム。そうか。オイ。これだぜ。これを政治的フクミと云うんだ。今の言葉でな。そうか。血筋は争えないもんだなア。さすがに名門の子孫だよ。おそるべき政治的手腕だぜ。バカどころか、バカとみせて、見上げた腕じゃないか」
「政治家ねえ」
「おそれいった」
にわかに認識が改った。
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