でいる女の先生が送ってくれた。これが驚くべき美しい人なのである。こんな美しい女の人はそのときまで私は見たことがなかったので、目がさめるという美しさは実在するものだと思った。二十七の独身の人で、生涯独身で暮す考えだということを人づてにきいたが、何かしっかりした信念があるのか、非常に高貴で、慎しみ深く、親切で、女先生にありがちな中性タイプと違い、女らしい人である。私はひそかに非常にあこがれを寄せたものだ。本校と分校と殆ど交渉がないので、それっきり話を交す機会もなかったが、その後数年間、私はこの人の面影を高貴なものにだきしめていた。
村のある金持、もう相当な年配の男だそうだが、女房が死んでその後釜にこの女の先生を貰いたいという。これを分校の主任にたのんだものだ。何百円とか何千円とかの謝礼という約束の由で、そのときのこの主任の東奔西走、授業をうっちゃらかして馳け廻って、なにしろ御本尊の女先生が全然結婚自体に意志がないので無理な話だ。毎日八ツ当りで、その一二ヶ月というもの、そわそわしたこの男の粗暴というより狂暴にちかい癇癪は大変だった。
私は行雲流水を志していたから、別段女の先生に愛を告白し
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