れぬ。それを覚悟の上なら、拙者が存分に筆を入れませう」
「そんなバカなことがあるものですか。あなたの思想は全部ろくでもないのですから、全部けづつて昔の娘にかへして下さい。つまりあなたは娘に会つて、タイタイ先生の思想は邪教だから気狂ひ以外はマネちやいけないと教へて下さらなければいけませんよ。断じて、絶対、あくまで」
「璽光《じこう》様ですか。あれは偉大なるものだ。僕は遠く及ばんです。双葉山は璽光内閣の厚生大臣ださうですが、僕などは文部省の風教課とか何とかいふ小役人にすぎないので」
「まア君、一度娘に会つて君独自の観察で娘の生態を見きはめてくれたまへ。さすれば、おのづから君の結論も生れてくるわけだ。その結論に期待してゐるわけだから」
かういふわけでタイタイ先生はさつそくその日の夕刻、マリマリ嬢の働く酒場へでかけることになつたのである。
★
タイタイ先生は情痴作家の張本人だの邪教の教祖などゝよばれて悪銭を山の如く稼いでゐるやうに思はれてゐるが、実はヤミ市のバラックでからくもカストリ焼酎などゝいふものにウツを散じてゐる御身分だから、麗人がサービスにでる酒場などへは足
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