、そんなあさましいことを、どこへお書きになつたんですか。頼みもしないのに自分の勝手で子供をこしらへて、子供が大きくなつてからあゝしちやいけないかうしちやいけないなんて、子供をこしらへる前後のことを考へたら羞しくなりませんか、なんて、先生、よくまアそんなあさましい入れ智恵をなさつたものねえ」
「それは見上げたものだ。真理ぢやないですか。そこであなたはどういふ言葉で答へましたか」
「どういふ言葉もあるものですか。夫婦だのパパだのママだのと偉さうな顔をせずに、よそのオヂサンやオバサンたちと恋愛でもしてみたらいゝのに、だとか、離婚したこともないくせに一人前の顔をするなんてバカバカしいや、だなんて、先生の御本にはちやんとさう書いてあるんだなんて申しましたよ。女房よりはオメカケの方がはるかに高い生き方だなんて、先生、よくまアそんな」
「分りました。思想に於て拙者の高弟といふわけですな。実践の事実に就ておきかせ下さい」
「その方面がどういふものだか、僕らには分らないんでね。たゞ娘の宣言によると、これから恋愛をはじめるさうでね、してみると、まだ恋愛はしてゐないといふことになる。そこで君にお願ひに上つた
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