シズムがある。
まだ十二三の未熟な少女がまづ父親に男を見出して本能的なエロチシズムを働きかけるとき、そこに現はすエロチシズムの芽は、その女の一生の最も強烈なエロチシズムの原色を示す。この原色の烈しさをぼかす心のカラクリがまだないからだ。かうして原色のエロチシズムは父を兄を対象として発育しつゝ、同時に原色的なものと対立する心のカラクリが発育してこれを包み、隠し、とぢこめて成人する。そして恋をするころには、もはや原色のエロチシズムは失はれ、隠されてゐる。
しかし、この原色のエロチシズムは天分ではなく、本能だ。相当に技巧的なものに見えても、本能も亦《また》技巧的なものであり、蜘蛛は生れながらにしてあの微妙な巣を織るではないか。マノン・レスコオ。又、メルトゥイユ侯爵夫人の天分はかくの如きものではないのである。
誰しも持てる力について、実験してみたいといふ気持がある。しかし時代の生活感情がそれを許さなければ、こんな実験慾は小さな芽のうちに、しほれてしまふ。ところが時代感情がそれを許すと、同時に、それを育てゝしまふ。前大戦の後ではフランスが今の日本と同じことで、ガルソンヌなどゝいふ実験少女が
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