きたくないほどだったが、毛里は寸刻の休みも与えてくれなかった。ただちに花井を連れてきて対決させたのである。
「そんなことを云った覚えはないです」
と、花井は狂気のように猛りたって叫び、また怒った。それに対して人見はもう蚊のなくような声で自説を主張することしかできなかった。
「とにかく平戸先生をよんで訊けば分ります」
主張というよりも、あきらめきったようなかぼそい声であった。
毛里はこれから寝るばかりの平戸先生を強引につれてきた。平戸の証言はこうだった。
「私は仕事に耽っていましたので、お二人のお話が耳につきませんでした」
人見はまるで自分に無関係の話をきいてるように動揺がなかった。ややうつむきがちに、ただ黙々としていた。目を開いてるが、眠っているようでもあった。
それを指して花井は云った。
「とうとうシッポを現しましたね、人見さんは。この人はサヨと情交があったんです」
「え?」
さすがに人見も、はじかれたように、顔をあげた。
「僕とサヨが? 何が証拠です?」
「サヨの良人は死ぬ前一月以上もあなたに診てもらっていたでしょう」
「そうです」
花井はニヤリと笑って言った。
「そ
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