の費用をサヨは何で払いましたか。サヨは自分の身体でしか支払いをしない女です。それとも、あなたにだけはお金で払ったでしょうか」
 人見は椅子の肱に両手をかけて、身を起していた。
 そして彼はサヨの姿を思いだしていた。サヨは渋皮のむけた女であった。不潔ながらも、変に色ッぽかった。彼女はたしかに彼に支払いをしようとした。云うまでもなく、たしかにその肉体で。彼女はわざと膝をくずして、白い股が見えるように坐っていた。わざと片手を高くあげて後手にまわすと、腋が大きく切れていて、腋の下と腕の附け根と乳房の一部分が見えた。サヨは変な笑い方をして、彼にナガシ目を送った。
 彼はその支払いをうけとらなかった。そして、たしかに金も肉体もうけとらなかった筈であるが、それは筈であったというだけのことで、そのサヨの姿はいつまでも彼の脳裡にからみついて生きていた。
 いまそれを思いだすと、それは妖しいほど生きていたのだ。まるで彼はその支払いをキレイにうけているような気がした。
 そして、そのサヨの姿が益々鮮やかに目にしみてきたとき、彼は椅子の肱にかけた両腕に力をこめて身を浮かそうとして、急に目マイがした。
 人見はガックリ前にくずれた。そして、いつもは彼の患者が腰かけている椅子から滑り落ちて、卒倒してしまった。
 それを冷やかに見つめていた毛里は、舌打ちして立ち上った。そして云い捨てた。
「此奴が犯人さ」
 花井はもっと確信があるらしかった。そして彼は云った。
「僕はサヨが全裸で殺されていたと聞いたときから、犯人はこの人だと見ぬいていました。この男は、女の全裸をたのしむ狂人なんです。この上もない好色漢です。ごらんなさい。この診察室こそ、彼が秘密をたのしむ城だったのです。彼はここで多くの女を全裸にさせて快楽をむさぼっていました」
 平戸先生は美しい顔をあからめて、そッとそむけた。なぜなら、彼女もこの部屋で全裸になったことがあるからであった。もっともそれは全裸になって医師に示さざるを得ない余儀ない病気のせいであった。人見に強いられてのことではない。
 平戸先生は次第に蒼ざめた。ぞくぞく寒気がした。居たたまらない気持になった。
 平戸先生がいそいでイトマをつげて去ると、花井が追ってきた。
「僕、お宅までお送りします」
「いいえ。おかまい下さらないで」
 彼女は走った。花井も走った。彼女は次第に真剣に、
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