多少は度胸をつけること私も実験ずみだが、この新美氏のヒロポンの知識は専門家だから大したもので、私は二時間にわたってヒロポンの講話を承ったが、あんまり専門的な話だから、感心しながら、みんな忘れてしまった。ノートをとっておけばよかった。
そのとき、ヒロポンは元来モヒ中毒の薬として発明されたものだということを知った。そのうちに覚せい剤としての効能などが分ってきたのだそうである。船酔いなどにも良いそうだ。とにかく、きく。これを飲めば十時間は必ず眠れぬ。その代り、心臓がドキ/\し、汗がでる、手がふるえる、色々とにぎやかな副産物があって、病的だが、仕事のためには確かによいから、自然、濫用してしまう。
(下)
織田作之助がヒロポンを濫用していた。彼は毎日ヒロポンの注射をして仕事にかゝるのだが、毎日というのは、よろしくない。
私は仕事の日と、遊ぶ日を別にしており、仕事の日は仕事だけ、遊ぶ日は遊ぶだけ、というやり方だからヒロポンは毎日用いてはいない、もっとも、ヒロポンを用いて仕事をすると、三日や四日の徹夜ぐらい平気の代りに、いざ仕事が終って眠りたいという時に、眠ることができない。
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